聖籠町と新潟市北区にまたがる新潟東港工業地帯に建設予定の「バイオマス発電所」ですが、
建設計画が進んでいたいのもかかわらず、着工が2026年度まで延期されています。
なぜなのでしょうか?また予定通り着工は行われるのでしょうか?
当初は2023年度に着工予定だった
聖籠町で建設計画が進んでいたバイオマス発電所ですが、事業主である東京の新電力会社
「イーレック」は、
燃料に予定する新たな植物の環境への影響を丁寧に評価する必要があると判断した。
ため、着工を2026年度まで遅らせることになりました。
また営業運転開始も、2029年度まで延期される予定です。
着工延期の理由1【燃料について】
開発中のイネ科の植物「ニューソルガム」について、環境アセスメントで新潟県と新潟市から
より詳細な内容を明らかにするよう指摘があったとのことです。
すでに「木質ペレット」は燃料としてバイオマス発電に使われていますが、
「排出ガスは燃料の種類によって異なる」として、事業者側に対して「ニューソルガム」
についての詳しい説明を求めています。
建設・稼働後に周辺への環境に悪影響が出てしまっては、せっかくのバイオマス発電所も
歓迎されなくなってしまうかもしれませんね。
燃料に使用する新しい植物ならなおのこと、詳しい調査が望まれるところです。
着工延期の理由2【埋蔵文化財の調査】
聖籠町内では、バイオマス発電所の敷地内に埋蔵文化物があるとし、
試掘調査が必要だという意見が出されています。
確かに文化財がそこにあるのであれば、それを無視して建設を急ぐのはよくありませんね。
バイオマス発電所誘致のメリットは「経済」と「環境」
聖籠町はバイオマス発電所を誘致する「バイオマスタウン構想」を持っています。
バイオマス発電所の誘致には、メリットとデメリット両方があると思います。
メリットとしては、地元経済の活性化や税収の増加、雇用の促進などが挙げられます。
主に経済面でのメリットが大きいと思われます。
また二酸化炭素排出量の削減や、ごみの焼却量やコストの削減など、
環境面でのメリットも挙げられます。
デメリットは資源や運搬の収集にかかるコスト
バイオマス発電の資源は広範囲から収集するため、運搬や管理にコストがかかる
と言われています。
バイオマス燃料の栽培や加工、運搬などのために化石燃料を多く使うと、
温室効果ガスの排出を増やしてしまうという懸念があります。
ただ聖籠町では、
・町内で生ごみたい肥化事業を拡大させている。
・食品工場から出る食品廃棄物は、町内排出事業者によって堆肥化が進められている。
・果樹などの剪定枝やもみ殻など、農業関連の廃棄物のバイオマス活用は推進中。
とのことで、環境や効率に配慮した準備が行われています。
聖籠町の「バイオマスタウン構想」について >> こちら
バイオマス発電って何?
バイオマス発電とは、一般家庭から出る可燃ごみや家畜などの排せつ物、
木材や農業関連廃棄物などの生物資源を直接燃やしたり、ガス化してタービンを回して
発電する方法です。
地球温暖化が進む中、化石燃料からの脱却や安定的なエネルギー供給を目指し、
バイオマス発電所の建設が推進されています。
バイオマス発電は生物由来の燃料を燃やすため、「火力発電」の一種とされています。
一方で、燃料調達による環境破壊や排出ガスによる公害などが問題となっている
側面もあります。
日本ではバイオマス発電の普及が遅れている
実は日本では、バイオマス発電の普及が遅れています。
その理由に燃料の調達があります。
バイオマス発電の主な燃料「木材ペレット」は輸入に頼っており、
発電コストが高いのが現状です。
またバイオマス発電所を誘致で必要なのが、広大な土地です。
日本は国土が狭くまた前述のように、燃料の調達や運搬にも場所が必要なため、
バイオマス発電所の建設場所の確保はハードルの一つとなっています。
国ではバイオマス発電に対し補助金を出しており、
聖籠町のように地産地消のバイオマス発電を行う自治体もあります。
世界のバイオマス発電大国は?
2021年の調査によると、世界でバイオマス発電容量が多い国は
中国、ブラジル、アメリカ、ドイツとなっています。
他にもラオスやブータン、タジキスタンなども積極的にバイオマス発電を行っています。
日本でのバイオマス発電利用率は?
日本で発電されている電力の中で、バイオマス発電は2.9%を占めています。
再生エネルギーの中では太陽光、風力に次いで14.6%を占めています。(2020年)
バイオマス発電は2010年から2020年にかけて、発電量は10倍にも上ります。
いろいろな課題はあるものの、将来的にはさらにバイオマス発電は増えていくもの
と予想されます。
日本最大規模のバイオマス発電所は?
兵庫県相生市にある「相生バイオマス発電所」が、2023年本格運転を開始しています。
燃料に木材ペレットを使用し、発電出力は20万キロワットで、
現在日本最大規模のバイオマス発電所です。
20万キロワットというのは、年間で約43万世帯分の電力量に相当します。
新潟東港のバイオマス発電所の予定規模は?
聖籠町で現在着工が延期されているバイオマス発電所が運転を開始した場合、
30万キロワットの出力が見込まれています。
これは世界的に見ても大規模な数字で、実現すると新潟東港のバイオマス発電所が
日本で一番規模の大きいものになるかもしれません。
バイオマス発電所は爆発事故が多い!?
2024年7月19日、北海道石狩市のバイオマス発電所で爆発事故が発生しました。
燃料のペレットを搬入中に突然爆発し、建物の屋根が吹き飛ばされ、
大きな爆発音と煙が上がったということです。
この事故で男性作業員1人がやけどを負っています。
また2023年年9月には鳥取県米子市の「米子バイオマス発電所」では、
爆発を伴う火災が起きています。
この事故の原因について、バイオマス発電所を運営する「米子バイオマス発電合同会社」は、
発電所を監督する経済産業省に、
事故は「複合要因で粉じん爆発が生じた」とする最終の調査結果を報告した。
実はバイオマス発電所での火災や発煙などの事故は2019年以降、全国で13件発生しています。
事故に関係していると考えられるのが、「木材ペレット」です。
木材ペレットが関係して起きる事故のタイプは、
1.木材ペレットが発酵する過程でガスが生じ、引火・爆発する「ガス爆発」
2.木材ペレットの細かい粉が空中に浮遊し引火する「粉塵爆発」
の2つがあります。
専門家によると、
木材はいわば「生もの」なので、自然発酵してしまう。
保管期限を区切って管理するなどの対策が必要」
と指摘しています。
参考記事:バイオマス発電所でなぜ事故が相次ぐのか・専門家が指摘する可能性
まとめ
聖籠町を含む新潟東港のバイオマス発電所の建設は、2026年度まで延期が決まっています。
経済面や環境面ではメリットの大きいバイオマス発電所ですが一方で、
運営コストの低減が課題となっています。
また全国のバイオマス発電所では爆発事故が相次いで発生していることから、
事故を未然に防ぎ、安全に運営するノウハウの構築が急務と言えるでしょう。